死んだほうがマシなことだってあるーなんで僕に聞くんだろう。(幡野広志)
著者はガンを患っている写真家で、元狩猟家で、一児のパパである幡野広志さんだ。
本書は「cakes」で連載されていた「幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。」から抜粋された記事を書籍化したものである。
タイトルの通り、幡野さんは血液のガンを患った写真家の方なのだが、なぜだか彼のところには多くの人生相談が寄せられるそうだ。
恋愛しまくってる恋愛戦士のようなお坊さんに相談したほうがいいのではないだろうか。(p4)
本書を読むまで、私は幡野さんを知らなかったのだが、彼の言葉の一つ一つに彼の人柄や魅力を感じた。そういった滲み出る人間味を相談者たちも感じ取っているからではないだろうか。本人は文章のことをほめれると気恥ずかしいらしいが。(p117「幡野さんみたいな文章を書きたい」)
過去ツイートを確認しようとスクロールしましたが、Wi-Fiが弱くてすぐあきらめました。(p36)
叔父のことは霊媒師、妻の叔母のことは腹話術師とぼくは呼んでいるのだけど、正直なところ、死ぬまで会わなくていいかな。(p54)
ちなみにこのデスはdeathとかけてます。誤変換ではありませんデス。(p114)
なんとなく幡野語録?を抜粋してみたが、どのような場面での言葉かは是非本を手に取って確認してほしい。
何かを否定すると自分の可能性も狭める
幡野さんはこのようなことを様々な場面で言っている。(p74 誰かを否定することは自分の可能性も狭める)
彼の飾らない言葉の一つの軸としてあるように感じた。
障害のある寝たきりの子どもを見て「怖い。気持ち悪い。こんな風になりたくない。」と小さな子が言っていて、その子にどう声を掛けたらよかったか?といった相談に対して
だから、障害があろうがなかろうが、人は国籍も性別も病気も多様性があって、あたりまえということを教えます。そして何よりも自分と違うことが、たのしいということを教えると思います。
(中略)
自分と違う存在をまずは認めるということです。(p136)
子どもを産む覚悟ができない女性に対して
(こんな気持ちで産むなんて無責任だし、失礼だ)
あなたが自分にかけた呪いの言葉はいつか、悩む誰かにあなたがかけてしまいます。あなたが誰かの敵になってしまいます。だから絶対にやめましょう。(p142)
他の相談に対しても幡野さんはこのような考え方の大切さを説いているように感じる。”多様性”については以前の書評についても触れているが、私自身とても大切にしたいものだ。
納得するかどうかは二の次で、まずは受け止める、認めること。その上で自分にとって大事にしたいことを考えながら、分析して、付き合っていく。そんなひと手間で見えている世界の解像度はとってもあがる。写真家だけにね、と教えてくれるような気がする。
死生観、幸せとは
いささか、まとめのようなことを書いてしまったが、もう少し本書の魅力について紹介したいと思う。
幡野さんは、大病を患ったから、というわけでもないのだが、人の死や幸せについてもよく話されている。
どんなしあわせが待っているかわからない、だから生きるんだ。という党員規則もわかるのですが、世の中と人の心はもうちょっと複雑で、死んだほうがマシなことだって、命よりも大切なことだって存在します。(p105)
ぼくも病気になって自殺を考えましたが、自殺したいときにいちばん苦しかったのは自殺を否定する人の言葉です。(p115)
彼の軸には「多様性」があるといったが、もちろん人の生き死に、幸せにだって多様性は存在する。これは勝手に死ねばいいとかそういったものではなく、「生き方の選択」と彼は言っている。
「まずは自殺することを否定せずに、肯定してあげてください。いつでも死のうと思ったら死ねるんだから、いまを生きる方法を一緒に考えましょう」(p115)
きっと「いい写真」と「うまい写真」とおなじことで、誰かが作った常識に疑問を持つことって必要です。写真とおなじで、生きかたも、ちょっとしたアドバイスと、視点や思考をすこし変えるだけで一気によくなるとおもいます。(p116)
「普通」という言葉に気をとられないでください。時代は変わりました、いろんな環境の人がいます、これからの「普通」は多様性です。いろいろな幸せの価値観があります。あなたがしあわせならそれでいいんです。(p34)
仕事や人間関係など生活と切り離せないくせに、自分の幸せと関係ないこともあるし、さらには幸せを妨害してきたりすることだってある。もちろん、折り合いをつけながら、嫌なことだって頑張らなくちゃいけない。
ただ、その息苦しさから、自分の夢を否定したり、自分を傷つけることなんてないんだ。
「マジでヤバい」ときには逃げ出してしまおう。
人生を息苦しくするのも、ハッピーなものにするのも結局は自分なんだ。周りが敵だらけに見えた時、もう少し自分勝手に幸せになりたいとき、この本はそっと背中を押してくれると思う。